Story
【introduction】/【story】/【ヘッダ・ガブラーとは?】/【古川貴義(演出家)のコメント】
【あらすじ】
ヘッダは悪い女である。
ヘッダはひどい女である。
ヘッダは無茶苦茶な女である。
彼女の言動を見ていると、そうとしかいいようがない。
ヘッダはわがままで自分中心的な子供である。
誰からも無条件で愛されることを望み、自分から愛することはない。
そして退屈しのぎに、人の運命を玩具のようにもてあそぶ。
舞台は、ガブラー将軍の娘ヘッダとその夫、学者のテスマンの新居。
新婚旅行から帰ったばかりの二人のもとを訪れてきたのは
ヘッダに思いを寄せ、その微妙な関係を楽しんでいるブラック判事。
そしてテスマンのライバルであり、ヘッダが唯一特別な感情を抱いた、レェーヴボルク。
そのレェーヴボルクを追いかけてやってきた、かつての友人、エルヴステード夫人。
彼らはみな、自分の思うがままに奔放に生きるヘッダにその運命を振り回されることになる。
しかし、この物語の結末は“ヘッダの死“という形で突然訪れる。
なぜヘッダは、その時、自らの命を絶つことですべてに突然幕を下ろしたのだろうか・・。
【一幕】
「なぜ、僕と結婚したんだい?」
「あなたのことを愛していたから」
・・・とは、ヘッダは口が裂けても言わない。だって愛してはいないのだから。
ヘッダは思ってもみないことは口にはしない。
ガブラー将軍の娘ヘッダと夫のイェルゲン・テスマンは、半年にも及ぶ新婚旅行から帰ってきた。
テスマンは、ヘッダの望みをすべて受け入れ、彼女の希望する新居を購入し、無理をしてまでも彼女の贅沢を許している。
この新婚夫婦の新居に、かつての友人であるエルヴステード夫人が、落ち着きのない、ただならぬ様子で突然訪ねてくる。
「エイレルト・レェーヴボルグがこの町にいる。」
エルヴステード夫人の言葉に驚くヘッダとテスマン。エイレルトとは、研究者であるテスマンと大学教授のポストを争ったライバルであり、ヘッダにとってもまた特別な存在の男であった。
そして、エルヴステード夫人はそのエイレルトの後を追い、ヘッダの住む町にやってきたというのである。
次にやってきたのは、ブラック判事である。
ヘッダより20歳近くも年上ではあるが、ブラック判事が彼女に思いを抱いているのは明らかで、その微妙な関係性をむしろ楽しんでさえいるようである。
そのブラック判事の口から、衝撃的なニュースが告げられる。
ほとんど決定と思われていたテスマンの大学教授への任命があやぶまれているというのである。
失脚したはずのかつてのライバル、エイレルトが再び急浮上してきたのである。
大学教授になることだけを頼りにヘッダとの結婚を勝ち得たテスマン。
このエイレルトという男の存在が、テスマン、そしてヘッダの運命を大きく左右しようとしていた。
【二幕】
「恋をして自分をなくす、それが嫌なの。恋はされるもので、するもんじゃない。」
・・・ヘッダは誰からも無条件で愛されることを望み、自分から愛することはない。
そして退屈しのぎに、人の運命をおもちゃのように弄ぶ。
その日の午後、テスマンの留守の間に、ヘッダのもとをブラック判事が再び訪れる。
テスマンとの新婚旅行が、死にたいくらい退屈で苦痛だったこと、そして何より、テスマンとこれから歩んでいく退屈な人生にウンザリしているのだと、ブラック判事に嘆くヘッダ。
ブラック判事は、そんなヘッダの様子に喜びを覚え、自分こそがその退屈を紛らわす存在である、とヘッダに囁く。
もちろんそんな会話がされているなんて、テスマンは知るはずもなく・・・。
そしてついに、エイレルト・レェーヴボルグという男が現れる。
自分のすべてをつぎ込んだという原稿をその手に持って。
テスマンは動揺しつつも、ブラック判事の家で開かれるパーティーにエイレルトを誘う。
しかし、過去のあやまちから酒を断っているエイレルトは、その誘いをかたくなに断り、ヘッダと家にとどまることを選ぶ。
テスマンとブラック判事が去り、二人っきりになるヘッダとエイレルト。
エイレルトは、ヘッダに詰め寄る。
二人の過去の関係は、いったい何だったのか・・・
なぜ、あの日の午後、自分にピストルを向けたのか・・・
そこへ、エルヴステード夫人がやってくる。
ヘッダは、エルヴステード夫人が嫌がるのも聞かずに、彼女がエイレルトを追ってこの町にやってきたことを、エイレルトにばらしてしまう。
そればかりか、エルヴステード夫人が必死に止めるのも無視し、エイレルトに酒をすすめ、ブラック判事の家でのパーティーに行くようにけしかけたのである。
エイレルトが酒に溺れて身を滅ぼすことを恐れるエルヴステード夫人。
そんな彼女のうろたえる様子と、パーティーへと出かけて行く男達の後ろ姿に、ヘッダは笑みを浮かべるのだった。
「一度でいいから、人間の運命を変えてみたいの。」
【三幕】
「心が死んだ。あとは、この体をどう始末するか。」
「だったら、美しくってお願いしたいわ」
・・・ヘッダは、誇り高いビューティー・モンスターなのだ。
そして観客は美しい悪魔こそ見たいのではないのだろうか。
エルヴステード夫人は、一睡もせずにエイレルトの帰りを待っていた。
そして朝になり、ようやく家に戻ったテスマンは、ヘッダに昨夜のパーティーでの出来事を話し始める。
エイレルトの原稿がとても素晴らしかったこと、しかしエイレルトはメチャクチャに酔い潰れ、あろうことかその原稿を置き去りにしてどこかへ行ってしまったこと。
そして、テスマンはそのエイレルトの原稿を家に持ち帰ってきていたのである。
そんな折、親戚危篤の知らせを受けてテスマンは外出することに。大事な原稿をヘッダに預けて・・・。
しばらくして、自分の原稿をヘッダが抱えているとは知らないエイレルトは、ヘッダとエルヴステード夫人のもとへやってくる。
そして、原稿はもうこの世に存在しない、自分が引き裂いたと告げるのである。
エイレルトの原稿を、まるで我が子のように大事に思っていたエルヴステード夫人は、思いもよらないエイレルトの告白に驚き、失望し、その場を去る。
エルヴステード夫人が去った後、エイレルトはヘッダに本当のことを告白する。
原稿は引き裂いたのではなく、どこかへ置き去りにしてきてしまったのだと。
自分は我が子を置き去りにし、どこではぐれたかさえ覚えていない、それは我が子を殺す以上に罪深い行為なのだ、と。
失意のエイレルトに、ヘッダが手渡したもの・・・それはピストルだった。
「立派によ、エイレルト・レェーヴボルグ、約束して。」
そしてエイレルトが出て行くと、ヘッダは隠し持っていた原稿をストーブの炎の中に投げ込んだのだった・・・
【四幕】
「なんてことだ!人はこんなことはやらないものだ!」
人間はどんなことがあっても生き続ける。
でも、人生というゲームを、ヘッダのように途中でやめることが出来れば・・・
「こんなのつまんない、ヤーメタと」
テスマンが外出先から慌てた様子で戻ってくる。
エイレルトが行方不明になっているというのである。
そんなテスマンにヘッダは、平然と、あの原稿は燃やしてしまった、と告げる。
テスマンは驚愕するが、自分を大学教授にする為にライバルの原稿を燃やした、というヘッダの言葉を鵜呑みにし、喜びを隠しきれない。
そこへブラック判事がやってきて、衝撃的な事実を告げる。エイレルトがピストルで自ら命を絶ったというのである。
弾はエイレルトの胸を貫いていた。
エイレルトの潔い英雄的な死に満足するヘッダ。
一方、テスマンとエルヴステード夫人は、悲しみをこらえながら、亡きエイレルトの意志を継ぎ、原稿を何とか復活させ本にしようと作業を始める。
すると、部屋に一人残ったヘッダに、ブラック判事はエイレルトの死の真相を語り始める。
エイレルトの死は、ヘッダが望んでいたような美しい、立派なものでは決してなかった。
エイレルトは、女の部屋で、しかも腹を撃たれて死んでいたのだ。
その惨めで低俗な死に方に失望するヘッダ。
しかしブラック判事の口からはさらにヘッダを追いこむ事実が語られる。
エイレルトと共に発見されたピストル――警察はこれが本人のものではなく、盗品であることを掴んでおり、ブラック判事は、ヘッダがエイレルトに与えたものであることを知っていたのである。
ブラック判事がその事実を握ったことで、自分より優位な立場に立ったことに愕然とするヘッダ。
自分がこのスキャンダルに巻き込まれないようにするには、一生ブラック判事に頭が上がらないのである。
原稿の復活作業に没頭する、テスマンとエルヴステード夫人。
今まで、ヘッダは彼らの中心にいて、彼らを思うままに支配して動かしていたはずだった。
しかし今は、ヘッダのことなんて、まるで眼中にないかのような二人。
すると突然、ピストルの音が家に鳴り響く。
そしてテスマン、エルヴステード夫人、ブラック判事が駆け付けた時、自分のこめかみを撃ち抜いたヘッダは、既に息たえていた。
「ひとはこんなことはやらないものだ!けっしてやらないものだ





